『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
「あ…あれ……」


恐々と指差す彼女の目線を辿って吹き出した。


「愛理さん…あれは甲冑。戦国時代の武士が身に付けてた装具だよ」


確か何処かの国の大将のものだったと思う。
古道具屋から始まった久城家の宝物だ…と言って、じいちゃんが玄関先に飾ったんだ。


「し…知ってますけど……誰かがいたのかと思ってびっくりして……」


胸に手をやりホッとしている。
吐いた真っ白い息が透明になって消えていく。

誰もいなかった家の中で見た最初の呼吸を、俺は忘れない様に…と胸に留めた。


「こんなのに驚いてたらきりがないよ。この家にはビッグな物ばかり置いてあるから」


古美術品や古道具を買い集めるのが趣味だったじいちゃんは、高価なものにも関わらず家の中をまるで美術館や博物館のように見せたいと言って飾り立てた。

おかげで家の中には今でも骨董品が多く並んでる。
盗難予防にとレプリカに替えられた物もあるけど、多くは全て本物で防犯システムは見た目よりもかなり強化されていた。


(この家くらいのもんだろうな。この近所で警察の巡回場所に指定されてる家なんて…)


今は誰も住んでないから余計に物騒だ。

こんな広い家が空き家になるんだから、日本の世の中はどうかしている。


(でも、そのおかしさを生んだまま知らん顔し続けている俺たち兄弟は、もっと変なのかもしれない……)

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