『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
……いつの間にか俺から離れ、甲冑の側に寄ってる彼女の元へと行った。
じぃ…と見つめてる目線はどうやら、兜に付けられたモチーフを眺めてるみたいだった。


「熱心だね」


さっきまで怖がってた人とは思えない肝の座りように笑って声をかけた。
彼女はこっちを振り向き、「面白いですね」と喋った。


「この兜に付いてるのって三日月でしょ?あたし戦国武将とかまるで知りませんけど、施設のお年寄り達に聞いたことがあって、兜の印はその人を表す目印みたいなもんだ…って言ってました。
三日月が目印の人ってどんな人だったのかなと考えると面白いですよね。そういう人達がいたからこそ、今の私達が在るんですよね……」


視点や考え方が変わってると思うのは、きっと彼女が特別な仕事を担ってきたからだろう。
誰かを気遣ったり思いやったりする仕事の中で、自然と身に付けてきたに違いない。


…だから惹かれるのものを感じるんだろうか。
俺には持ち合わせていないものを、彼女が教えてくれそうな気がするから…。


「…上がろう。家の中を案内するよ」


緊張気味に目を見開き、彼女が狼狽えながら頷く。
そのひんやりと冷たい手を握り、框へと足をかけた。



……これから始める時間がどんなふうに転んでも、共に歩いていって欲しい女性は彼女しかいない。



今日こそ彼女に伝えるんだ。



「長い人生を俺と一緒に歩いて欲しい…」とーーーー。




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