『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
「あらっ、久城様!」


驚いた様な声を上げる叔母を振り返って、改めて前を見る。

あたしの目の前には、大きな体をした男性。

犬の刺繍が入った渋めの赤のネクタイを締め、ブルーグレーっぽい色のスーツを着てる。

ワイシャツには薄いグレーのストライプが入り、ゴールドのタイピンには、ブランド名が彫ってあった。


……一瞬にして、あの写真の人だと分かった。

分かった途端ドキドキしてきて、足がシビれてるのも忘れた。

仰け反りながら後ろへ下がった。そのまま、相手の顔を拝んだ。



(やばっ、チョー理想通りっ!!)


ぼぅ…としてしまう。
妄想は止めとくように…と言われたけど、これはもう絶対に無理だ。



ぎゅっ…と抱きしめてしまった。


途端に広がる安心感。
初対面の人に抱きつくなんて、この時のあたしはやはりどうかしてたんだと思う。

だけど驚くのはそれだけじゃなくて、このお見合い相手の久城さん、あたしをそっ…と抱き返してくれた。



「………っ!」


驚いたけど、ちっとも嫌じゃなかった。
変な安心感がどんどん広がって、これが運命じゃなければ何?って気がしてくる。

夢か幻なの…?
そうでなければ、ファンタジー?



「ごほんっ!!」



叔母さんの大きな咳払いが聞こえて、あたしは我に返った。
パッと両手を広げて離し、大慌てで彼から距離を置いた。



「す…すす…すみませーん!!」


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