『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
「あたしをもう一度、剛さんのお嫁さんにしてくれませんか?
おばあちゃんみたいに料理上手ではないけど、貴方が何処にいても何処で泣いてても、今みたいに見つけて慰めに来るから。
帰ってきて欲しい、この家に。そして、思い出を残しましょうよ、楽しかったねと振り返られるような…いい思い出を沢山…」


おばあちゃんはいつも楽しかった日々へと回帰している。
料理を作るのは寂しさの現れ。

料理を作れば皆が集まる。
だから繰り返す。

このマイ・ホームに、孫達を呼び戻す為にーーー。



じっと見てる彼の口から吐息が漏れた。
呆れる様な顔をして苦笑する。

ぎゅっと握り返された丸い手の温もりは、さっきの咲子さんと似ていた…。



「お願いするのはこっちの方なのに…」


彼の言葉にハッとした。


「そ、そうですね!この家は剛さん家でした!」


自分の居場所みたいに思ってた。とんでもないや、あたし。


くくっと含み笑いをした彼が、クローゼットの中から出てくる。
大きな体ごとあたしに巻きついて、ミントの香りが鼻の奥をくすぐった。


「一緒に暮らそう。愛理にこの家に来て欲しい。ばあちゃんも一緒に三人で住んで、楽しい思い出を残そう。
ばあちゃんが死んだ後も『見て良かった』と言えるような思い出をいっぱい…」


縁起でもない話だけど…と戯けて笑う彼が、ポケットから「お土産…」と言いながら手渡してくれた。

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