『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
しゅん…となりながら部屋へ戻った。

襖を開けると中の雰囲気は意外にも良くて、叔母も母も『ゆる彼』も、笑顔で話が弾んでいた。



「さ、先程はどうも…失礼致しました……」


トイレで相当悩んで出した答え。
先ずは先方に謝る。それから自己紹介をする。


「こ、甲本愛理です……初めまして……」


ここまではずっと相手の顔は見ず。
見たくても見られない。
どんな顔を向けたらいいか、今のあたしには分からないから。


「久城 剛です。初めまして、愛理さん」


愛理さん…と呼ばれて、思わず顔を上げてしまった。
丸長の面差しがこっちを伺ってる。
目が合った瞬間、彼の細くて切れ長の眼差しが一段と細くなった。


(うわぁ…)


声に出せない程の感動ってあるんだ。

あたしに向けられた『ゆる彼』の笑顔は、これまで出会ったどの男性よりも可愛かった。


ぎゅっ…と、手を握りしめた。
間違っても、二度と抱きついたらいけない。
そんなことしたら、絶対にアウトだもん。


「愛理ちゃん、久城さんはね、貴女がとても気に入ったんですって。このまま直ぐにでも二人だけで話がしたいそうなんだけど、どうする?任せてもいい?」


仁科の叔母さんの言葉に、唖然として口を開けた。
さっきの醜態を気にも留めず、返ってあたしを気に入ったって⁉︎


(うそ…何かの間違いじゃないの…⁉︎ )

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