『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
『急には新しい人入りそうもないから…』

『愛理なら一通りの業務こなせるでしょ?』

『利用者さんも会いたがってたよ』

『お願い!職場を助けて!』



次から次へと送られてくるSOS。
気持ちが揺るがなかったわけじゃない。
でも、足はやはり動かなかった。


自分のプライドとか責任とか、そんなのに縛られて仕事するのはもうウンザリだと思ってた。

あたしはただ、人を好きなだけでいたい。

誰かのことを考えてプランニングするのですら、先ず最初に相手に対する気持ちを持って接していきたい。


……でも、今のあたしには、利用者さん達に対しての気持ちの欠片すらも持てない。

半年も続いた激務の末、全ての感情を持って行かれた……。





「どうかした…?」


頭の上から声がして、そっちを向いた。

軽く二重顎みたいに見える人に癒されて、愛されたい…と願ったあたし。
どうか誰も邪魔をしないで。
あたしはただ、幸せになりたいだけなのーーー……。



「どうも。素敵な場所で暮らせて幸せだなぁ…と考えてただけです……」


嘘はついてない。
あたしはこれから、ますます幸せになるんだ、きっとーー。



部屋の中に荷物を運び込みながら、寝室の横につながるウォークインクローゼットを発見した。

その中には値段の高そうなスーツが幾つも掛けられてあって、ネクタイもタイピンも嫌になるくらい沢山あって。

今更ながら、(ホントに大丈夫なの…?)と心配になってくる。

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