『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
あたしには経験のない身内の認知症…。
そう他人に言われたら、きっとショックに違いない。

でも……


「行った方がいいと思います。アルツハイマーなら進行性だと聞くし、早く診断してもらった方がおばあちゃんの為にもなる筈です…」



(ごめんなさい…)…と思いながら言葉を発していた。


あたしは施設で、ずっとケアマネージャーの仕事をしていた。
いろんな家族から相談をされることも多くあって、地域と病院との橋渡しみたいな役目も担っていた。

…何より困ってるのは家族ではなく本人だと知ってる。

受診を勧めるのは家族としては本望でなくても、実際には絶対的に必要なことなのだ。



あたしの顔を見つめたまま、久城さんは黙ってた。
ここであたしの職歴を披露して、経験上からのお勧めです…と話してもいい。

でも、あたしはそれをしたくなかった。
もう二度と、施設にいた頃の自分は思い出したくない。
同じ事を繰り返して、後悔もしたくない。
懺悔の気持ちを感じながらも、できる限りの努力をおばあちゃんの為にしてあげたい。


その為にも、少しくらい悪者になっても仕方ないと思った。
久城さんがそれであたしを嫌うのなら、あたしはここを去るだけだーー。



(せっかく理想通りの人と出会ったんだけどな…)


『ゆる彼』との生活は、最初から前途多難な雰囲気だった。
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