眠れぬ薔薇と千年恋慕
 


この三日間、わたしと同じように檻に入れられた少女たちが買われていくのをずっと見ていた。
客は皆暗い色のローブを纏い、肌は青白く、商人と似たような不気味な奴らばかり。じっくり吟味した後一人だけ買って行く客もいれば、適当に十人ほど選んで買って行く客もいた。

しかし容姿が悪いのか値段が悪いのか、あれほど賑わっていたのにわたしの檻の前で足を止める客はなかなか現れず、



……とうとう、時間だ。

口答えも抵抗もせずに、商人に引かれるまま檻から出た。裸足で踏んでいく石の床は凍ってしまいそうなほど冷たい。

前を進む商人の靴の音と鎖の揺れる音が、重なって響いていく。夜明け前の寒さが、僅かに吐いた息を白くする。


死がわたしに近づいてくる。
わたしも死に近づいている。


心臓はひどく静かで、穏やかだった。






「ほーら、餌の時間だぞ」

商人に連れられて来た場所は、わたしが入っていたものよりも遥かに大きな檻のある、ごつごつとした岩で囲まれた空間だった。
幾重にも掛けられた鎖と錠。漂う腐臭――その中に閉じ込められ飼われているのは、「人」じゃない。


「……これ、は」

「ケルベロスのショーはヴァルキュロットの人気の催しだ。たっぷり働いてくれたこいつには、褒美をやらねえと」


岩の壁に点々と灯る炎が照らし出すのは、おとぎ話でしか知らない、巨大な鋼色の胴体と三つに分かれた犬のような頭。
冥界の番をすると云われる赤く光る六つの眼にギロリと捉えられ、太く鋭い牙の並ぶ口から轟く地響きにも似た咆哮に、びくりと体が跳ねた。

「怖がんなくていいぜ、お嬢ちゃん。痛みなんて一瞬だ。すぐ楽になれる」


……化け物の餌。
これが、売れ残りの、末路。


 
< 4 / 19 >

この作品をシェア

pagetop