眠れぬ薔薇と千年恋慕
 


「……ふっ、」

笑いが込み上げ肩を震わせるわたしに、商人は怪訝な顔をする。

これでいい。これでいいんだ。
何も間違ってなんかいない。

楽になるためにここへ来た。
悪趣味な奴らの愛玩だって、化け物の餌だっていい。遅かれ早かれ殺されて死ぬ予定だったんだ、わたしは。


どんな死に方だって構わない。
早く、早く消えてしまいたい。


生きている限り、どこへ行ってもこの世界は地獄ばかりだ。




やがて商人は檻の鎖と錠を外すと、わたしを檻の中へと入れた。

首輪を鎖で固定されている化け物は、商人が戸を閉め錠を掛け直している間はまだ動けず、「餌」を目の前に激しく鎖を引きながらしきりに涎を垂らしている。
ドロリと涎が落ちた地面が煙を上げて焼けるのを、わたしは黙って眺めていた。


「薄汚え奴らに散々弄ばれて、親には売り飛ばされて、挙げ句の果てにはケルベロスに喰われて骨すら残らねえとは悲惨な人生だなァ」

鎖と錠を掛け終えた商人が檻の外で笑う。


……悲惨な人生。
悲惨なんていう綺麗な言葉ひとつで括られてしまう、わたしの長い長い、十六年。


外から化け物の首輪を繋ぐ鎖を切り離せば、もう、終わりだ。


 
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