雨の繁華街
無言で歩き出す彼女。どういう表情をしているのか怖くて背後を振り向けない。けれどやってしまった手前この手を離す訳にもいくまい。
そんなことを思いながら歩き出し、人混みを避けながら前へと進む。

「…連れ出してくれるの?」

空気に溶けていってしまいそうな程、か細い声で彼女は口に出す。それはどこか期待と不安が入り混じっているような、そんな心の揺らぎが見え隠れしている。

「.…だってあのままだったら、おねぇさんきっと泣いてしまいそうだったから」

バカ正直にそれを告げると、くすくすと小さく笑う。
「泣かないよ、大人だもん。でもありがとう。そういえば、おにぃさんに名前言ってなかったよね。わたし、アヤって言うの。おにぃさんは?」

イミテーションに煌びやかに彩りそして輝く夜の繁華街。冷たい雨が降り注ぐそんな、変哲のない夜に僕らは出会ったんだ。
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