冷たい舌
 忠尚はそのとき、久しぶりに意識を研ぎ澄ました。

 いつも、和尚には敵わないという思いから、閉じていた第三の目を開くように。

 忠尚も透子が時折、額に手をやるのに気づいていた。

 だがそれは、透子が人ならぬ力を持つからだと思っていた。

 こうしていると感じる。

 確かに、額だけが別の触覚を持つように敏感だった。

「いやな風ですね―」
 春日が呟いた。

 近くに立てられた幟がばたばたと優美な音楽を邪魔するように騒ぐ。

 こいつも感じている。

 これは……十年前と同じ風。

 あのとき、何があったのか、忠尚は知らない。

 だが、妙に空気がざわついて落ち着かなかったのは覚えている。

 やがて、一気にどす黒く変わった八坂の空に、空も大地も割れるのではないかと思うほどの、龍神の咆哮が響き渡った気がした。

 布団に潜っていた忠尚は、今にも此処が水没してしまうんじゃないかと思うような、妙な胸苦しさに襲われて、訳もなく、ぽろぽろと泣いていた。

 透子が託宣を受けなくなったのはあれからだ。

 忠尚は急激な淵の変化を不思議に思いながらも、それが何なのか確かめる術を持たない子供だった。
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