冷たい舌
「なにしやがるっ、この野郎っ」
と言ったつもりだったが、言葉にはならなかった。

「やめろ、透子! 俺の前でいちゃつくな!」
 忠尚の声に、透子が手を放す。

「別にいちゃついてなんか」

「俺の目にはそう見えるんだ!
 いいか、透子。俺とこいつが仲直りすることなんか金輪際ないぞ!」

「お前が言うなっ。それは俺の台詞だっ」

「それから、俺は寺を出るからな」
「忠尚!?」

「だって、お前、こいつと結婚するんだろ!?

 その尻拭いに、こいつのお下がりの寺を継ぐなんて俺は真っ平ご免だからな!」

「……俺のお下がりってもんでもないだろうが」
 眉をしかめるのを見た忠尚は意地悪く笑う。

「ははん。ざまあみろ。これで後継ぎが居なくなったら、一層お前等の結婚に親父は反対するな」

 エスカレートする一方の二人に、透子は溜息をついて、ちょっとタイム、と手を挙げた。

「わたし、喉乾いちゃった。何か持ってくるわ。みんな適当でいい?」

 ああ、と返事をすると、透子はテントから出ていきかけて振り返る。

「あのさ、和尚」
「なんだ?」

 顔をあげると、透子は暫く顔を見て、黙っていたが。

「いや、なんでもないや。後でね─」
 そう笑って手を振って出ていった。

「なんだよ、和尚にだけ」
 そんな忠尚の声がした。
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