フキゲン課長の溺愛事情
 ほとんどは自分のためなのだが、この際、そんなことはどうでもいい。余計なことを思い出さないよう、璃子は黙々と食事を終えた。食器を洗って水切りカゴに伏せてから、ダイニングテーブルにノートパソコンを持って来る。

(和田さんの翻訳が上がるまで時間があるし、ヒマだからエコタウンのホームページでもじっくり見てみよう)

 スウェーデン語のページは読めないので、右上隅にあるENGLISHのアイコンをクリックして英語のページに飛んだ。会社概要とエコタウンのマップは達樹へのインタビューの前に見てしまったので、ほかのアイコンをクリックする。そのうちに、スタッフ紹介のページを見つけた。そこに表示された数枚の写真の中に、見覚えのある男性の顔が小さく映っている。

「あ、課長だ。しかもすんごい笑顔」

 達樹が青い作業着のような姿で、同じような格好の男性たちと談笑していた。

(こんなふうに笑えるのに、なんで課長は日本では笑わないんだろう。やっぱり本当は日本に帰って来たくなかったの……?)

 恋人を残してきたんじゃないのだとしたら、いったいなんなんだろう。

 璃子はふとキッチンの食器棚に目を向けた。肉じゃがの皿を取るとき、奥の方に淡いピンクの取り皿や花柄のおしゃれなティーカップが重ねて置かれているのに気づいたのだ。

(もしかして、泣かせた彼女と顔を合わせるのが気まずいから……?)
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