フキゲン課長の溺愛事情
「水上、そろそろ昼休みが終わるぞ。こんなところでいつまでも油を売ってるなよ」
「あ……」

 璃子は啓一の方を見た。彼はいまだに達樹の言葉の意味が理解できていないようだ。

(課長が私の代わりに言ってくれたから……)

 璃子は文句ではなく別れの言葉を紡ぐ。

「今までありがとう。啓一と過ごした五年間は、私にとって宝物だった。お互い理解し合った大切な存在だと思ってた。こんなふうに終わるのは残念だけど……その気持ちだけは変わらない」
「璃子……」
「私のことを呼び捨てにしたら、和田さんがきっと目を三角にして怒るわよ」

 啓一がわずかに目を見開いた。

(きっと啓一は彼女がそんなことをするなんて思わないんだろうな)

「それじゃあね」

 璃子はそのまま啓一の横を通ってメインビルへと歩き出した。すぐに達樹が追いついてきて横に並んだ。チラッと見上げた彼の顔は、ナイスなタイミングで現れて気の利いたセリフを言ってくれたわりに、不機嫌そうだ。
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