フキゲン課長の溺愛事情
「ホント?」
「そうだよ。あんな表情もするんだぁって、ちょっと意外に思った」

 沙織に言われて、璃子はえへへ、と照れ笑いを浮かべた。

「わかるぅ? ホントは〝不機嫌課長〟なんかじゃないんだよ。あれで結構表情豊かなんだから」

 璃子がうれしそうに身悶えしながら笑うのを見て、沙織が呆れた顔をする。

「あー、もう、やってらんない。一応忠告はしといたからねっ」

 沙織はそう言って広報室に戻り始めた。

 友人の姿を見送った璃子は、ふと視線を感じて海外プロジェクト課の方を見た。入口横の壁に達樹がもたれて立っていて、ひとりになった璃子に声をかける。

「早く行けよ」
「はい!」

 端正な顔で微笑む彼の顔を見返し、璃子も笑顔になる。
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