フキゲン課長の溺愛事情
 一緒に家具店に見に行って買ったソファ。並んで座って一緒にテレビを見たよね。スチールラックの上には旅行ガイドブック。温泉や海に行ったりして、ふたりで楽しい時間を過ごしたのに。

 思い出すと、また鼻の奥がつんと痛んで、目にじわじわと熱いものが浮かんでくる。

「水上?」

 達樹の声が近づいてきて、璃子はゆっくりと廊下を見た。彼が璃子の表情に気づいて足を止める。

「水上……」
「どうしたら置いていけるんでしょうね」

 璃子のつぶやきに、達樹がわずかに首を傾げる。

「啓一の思い出と一緒に、彼を好きだった気持ちも置いていきたいのに」
「そんなふうに……思うんだな」

 達樹が低い声で言って、璃子に並んだ。

「すみません、手伝いに来てくださったのにうじうじと愚痴って」
「仕事中は気丈に振る舞っていたから、大丈夫なのかと思ったが」

 璃子は大きく息を吸い込んだ。

「大丈夫なつもりだったんですけどね……」
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