フキゲン課長の溺愛事情
 璃子は軽く両頬を叩いた。

「よーし、荷解き、荷解き!」

 気合いを入れ直して荷解きにかかる。とはいえ、段ボール箱を開けたものの、置き場所がなくて苦笑いした。

「CDも本も置く場所がないし、このままにしておこう」

 もう一度フタを閉めて、段ボール箱を隅に押しやった。衣装ケースは達樹がクローゼットに運び込んでくれたので、後はキャリーバッグとボストンバッグから通勤着を出して、クローゼットに吊すだけだ。けれど、バッグにギュウギュウ詰めにしてしまったせいで、お気に入りのブラウスがしわになっていた。しわを伸ばしながら吊しているうちに、キッチンから芳ばしい香りが漂ってきた。おかげでさらに空腹を感じて、目まいまでしてしまいそうだ。

(こんなどん底な気分でもお腹が空くんだ)

 でも、それは今、こうして達樹の部屋にいるからかもしれない。もしビジネスホテルにひとりで泊まっていたら、きっとなにも食べずにベッドに入り、余計に気力を失っていただろう。

 達樹にルームシェアさせてもらうことになったのをありがたく思ったとき、彼の声が聞こえてきた。

「水上、できたぞ」
「はぁい!」
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