フキゲン課長の溺愛事情
 恥ずかしくなって璃子の顔が真っ赤になった。それを見て達樹が口もとを緩める。

「今日は疲れただろうから特別だ。上司の手料理を食べる機会なんて、そうそうないぞ」

 泥酔して、勘違いからキスして、号泣して、元彼の新しい彼女とやりあってるのを見られて、おまけにお腹の音まで聞かれたのだ。ここはもう遠慮なんかせずに、開き直って彼の厚意を受けよう、と璃子は思った。

「そうですね、じゃあ、私も手伝います」
「いや、いいよ。水上は荷ほどきもあるだろ。俺に任せておけ」

 達樹の口角がキュッと上がった。普通の人がそんな表情をしても少し笑った程度にしか見えないが、これまでの彼の無表情さから考えると一番笑顔らしい笑顔だ。

「それじゃ、お言葉に甘えちゃいますね」
「ああ、できたら呼ぶ」

 璃子は部屋に行って、そっとカーテンを開けた。達樹の部屋は南西の角部屋で、この部屋からは西側の街の様子が見渡せる。遠くに見える市内の高層マンションの夜景がとてもきれいだ。

 さすがにいろいろあって疲れていて、このままソファベッドに横になりたい気分だったが、せめて荷物くらいは解いておかなければ明日の朝困ることになる。
< 89 / 306 >

この作品をシェア

pagetop