B級恋愛
「やってらんない」

何度目の雄叫びになるだろうか。ドレスの裾を広げ座る。
結婚式は感動できるようにできている…誰かが言っていたのを思い出す。たしかにって思う。だからなのかだからこそ、なのかはわからない。杏子は感動なんてしなかった。
花嫁が綺麗なのは当たり前。みな、プロがやるのだから。感動するのも楽しいのも当たり前。プランナーと打ち合わせをして作るのだから。
こう考えたら感動なんて無駄にしか思えない。―――いや、無駄だ。

(疲れたな…)

こんなことを思いながらまたため息をついた。
エスカレーターで一階に降りる。買い物をする者、お茶をする者高速バスの時間までうろつく者ロビーは様々な人が行き交っている。
ふと高速バス乗り場を見る。

―――このまま逃げられたら―――

「楽だろうな」

別な方から声がして顔を上げる。そこにいたのは―――

「市川さんっ。どうして…」

あまりにも意外すぎて見つめてしまう。そこにあったのは上司の市川結人の姿だった。

「ここ、オレの前の職場。仲良い奴等と飯を食っていたんだよ―――つうか、相崎はまだ式の最中だろ?」

「ボイコットしているんです。蒸し暑くていられませんので」

こう言い放ち近くのソファに座る。

「そっか。それは勝手だけどあれ…相崎さんを探しているんじゃねえか?」

市川が指差したその先。辺りを見渡す厳つい男性の姿があって目を見開く。

(やば…)

弟の姿だ。恐らく両親に言われて嫌々ながらに探しに来たのだろう。

「さあて、オレは帰るわ…」

ガシッ…

立ち上がろうとした市川の袖口を掴む。

「なんだよ?」

「戻りたくない…」

「はい?」

杏子の言葉にキョトンとなる。

「嫌なの。あそこに居たくない」

「あのな、妹の…」

「哀れんだ目で見られたくないの、だから…」

杏子はこう言って市川の腕の中に顔を埋めた。
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