罪深き甘い囁き
惑う過去、溺れるキス
その瞬間、時が止まった。
彼氏も含めた会社の同僚と来たバーで、カウンターの中に佇む懐かしい顔に、忘れかけていた胸の痛みが蘇る。
3年振りに会った元彼。
当時よりも一層魅力的な風貌に、胸が高鳴るのを感じずにはいられない。
こんなところで再会するとは思ってもみなかった。
「……彰」
唇を開くだけで呼んだ名前は、彼の耳に届くこともないまま、別の店員にカウンターから一番離れたテーブル席へと案内された。
私には、全く気付く様子もない。
カウンター席に座る一人客の女性と親し気に会話を交わす彰を見て、小さな嫉妬心が芽生える。
彰との思い出を回想して、過去に飛び立つ心。
現在進行形の彼氏を前にして、乱された心はどうにもならなかった。
「綾? どうかしたのか?」
「えっ?」
不意に名前を呼ばれて、思わず出た予想以上に大きな声。
チラリと見やったカウンター内の彰と、目が合った。
――気付いた?
ドキッと一際高鳴った鼓動。
期待に上昇し続ける心拍数は、自分では制御不能だった。
それなのに、彰の視線はそのまま何事もなかったかのように逸らされてしまった。
……私だと気付かなかったの?
それとも、覚えていない?
ショックだった。
彼氏と同僚たちの会話は、私の耳を素通り。
自分がどこにいるのかすら、分からなくなっていた。
「ちょっとごめんね」
一人になりたくて席を立つ。