罪深き甘い囁き
背徳の指先
不意打ちは悪だ。
握られた右手はどんどん熱を帯び、絡められた指先から私の理性を飛ばしていく。
彼氏の運転する車の後部座席で繰り広げられる密事は、私の心を嫌でも揺さぶった。
職場の飲み会に迎えに来てくれた悟は、好意的な態度で、私の先輩である橘さんも一緒に送ると申し出た。
それが、こんな事態を生むとも知れずに……。
「橘さん、遥のやつ、ちゃんと真面目にやってますか?」
運転席から問い掛ける悟に、橘さんは
「ええ、頑張ってくれてますよ」
私にチラリと視線を投げると、クールに答えた。
その冷静な口調同様、冷たい指先で私の手の平をゆっくりとなぞる。
火照った身体に冷たい刺激。
手の平を飛び出して、時折腕まで行き来する指先に、私の全神経は注がれた。
悟と当たり障りのない会話をしながらも、続けられる秘密の遊戯。
対向車のライトが車内を照らすたびに、悟に気付かれやしないかとドキドキした。
私が抵抗できないのは、きっと承知の上。
私が、橘さんに想いを寄せていたことを知っているからこそ。
車内に彼氏がいるというのに。
これは、いけない行為。
その大胆さが、私の脳内を麻痺させていた。
右腕の神経は研ぎ澄まされているのに、ボーっとしていく頭。
そんな中、ふと、手の平をなぞった橘さんの指が文字を形成していることに気づいた。
【は・る・か】
焦らすように動いた指先は、確かにそう綴っていた。