あの頃の私は知らない。
朝6時半の音楽室








「失礼しまーす……」


朝6時半。こんな時間から学校に来たのは初めてで、そもそも開いているのかどうか不安だったけれど、ちゃんと学校に入ることができた。

どきどきしながら、そろりと職員室のドアを開ける。音楽室の鍵を取るためには必要不可欠だった。


「誰だ?」


低く響いた声に、思わず背筋が伸びる。視線を上げると職員室の中に人影がひとつ。

学校と職員室が開いているということは、もちろん先生がいるからだということは分かっていたけれど、いざ声を掛けられると緊張して動けなくなった。

どうしよう、と思いながらドアのところで立っていると、向こうからその人影が近付いてくる。名乗らないと、と思っても声が出なかった。


「……ああ、なんだ。宇佐美じゃないか」

「お、おはようございます!」


その声を聞いて心底ほっとした。現れたのは私たちの学年主任の先生だった。



< 11 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop