まるでペットのような彼
翌朝、なんだか現実じゃないような感覚を引きずったまま会社に出社した。

左手には、いつの間に用意していたのか、朝目が醒めたときには、指輪が填まっていた。

華美過ぎず、仕事にも支障がなさそうなシンプルなタイプ。

とても私のことを考えられていると思った。





オフィスに入ると加藤さんが目ざとく指輪のことを指摘してきた。

「一条さん。おはようございます。指輪なんて、珍しいですね。婚約指輪ですか?」
そう言いながら覗いてきた。
咄嗟に手を隠してしまう。

「お、おはよう。」

「隠したって遅いですよ。図星なんですね。おめでとうございます。」

明るい笑顔で言われて、照れてしまった。


昼までさしてかわりなく仕事をしていたが、お昼休みに奈央子に拉致されていつものレストランにいる。







「郁美~。なんでここにいるのかわかるわよね。」

「えっ!あ…あはは…」

「笑って誤魔化そうとしたって、とんやがおろさないのよ。
ネタは、あがってるんだ。その左手の指輪の訳を話しやがれ!」

あ、あの…
奈央子さん、完全時代劇調になっております。

深いため息を吐いてから、奈央子に話しだした。


「これは、今朝起きたら、指に填まってたの。」








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