無愛想で糖度高めなカレの愛
「……ごめん、夕浬くん」


彼はその一言で、私が悩み事を言うつもりがないということを理解したのだろう。少しだけ開いた目は、徐々にまつ毛が影を作っていく。

失望したような表情に、ズキズキと痛む胸を押さえながら、これだけは言っておかなければと付け加える。


「でも、あの人は関係ないの。全部、自分自身の問題だから」


私の悩みは、恵次とはまったく別のことなのだとわかってほしかった。しかし。


「……明穂さんにとって、俺って必要ですか?」


夕浬くんからしてみれば、問題は悩みの内容以前のことなのだと、彼の一言で思い知る。


「俺には悩みを話すことが、すべてさらけ出すことができないんでしょう。……あの人の前では泣けるのに」


なんとか抑揚を抑えたような、苦しげな声で言われ、私の顔に泣いた痕跡があるのだろうと気付かされた。

はっとして無意識に頬に触れる。小さく白い息を吐いた夕浬くんは、表情を隠すように眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、一歩足を引いた。


「突然来てすみませんでした」

「っ、待って夕浬くん! ちゃんと話を……!」

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