無愛想で糖度高めなカレの愛
…………ん、あれ?

目を閉じて数秒。お互いの前髪が触れるくらい近くで、彼の吐息も感じるのだけれど、唇には何の感触もしない。

おかしいと思ってうっすら瞼を開くと、目の前の彼はじっと私を見つめていてギョッとした。


「嘘ですね」

「うっ」


……やっぱり見抜かれている。

ギクリとする私から手を離した河瀬くんは、屈めていた身体も元に戻した。

そして再び腕を組み、また何かの研究の分析結果のように話し始める。


「彼氏がいたら、もっと抵抗するものじゃないでしょうか。不快感や嫌悪感を抱く相手には自然と目を逸らすものですが、ずっと視線を合わせていましたし。瞳孔も開いていて、本気の嫌がり方とは違う気がしました。あと……」


目をしばたたかせる私を見下ろす彼は、ほんの少し口角を上げたイタズラっぽい表情で、あろうことかこんなことを口にする。


「ご無沙汰ですか? キス」


──かぁっと顔が熱くなる。

そんなことまで見抜いたの!? 慣れてないのがバレバレだったのかな。

恥ずかしいし悔しいし……ていうか失礼でしょ!


「そ……そーよ、その通りよ! 彼氏がいるなんて嘘だし、キスなんか三年もしてないわよ!」


赤いだろう頬をむうっと膨らませて開き直った私は、ガタッと勢い良く立ち上がり、急いで帰り支度をする。

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