無愛想で糖度高めなカレの愛
振り向かなくてもわかる。私の脳に染み付いてしまっている声だから。

どうしてここで会っちゃうのよ……。会議の時も、私は意識的に彼を避けるようにしていたというのに。


一瞬、苦虫を噛み潰したようになってしまった顔を、なんとかナチュラルに戻して振り向いた。

優しげに微笑む彼と視線が絡まり、ドクンと胸が波打つ。


「久しぶり」

「けい……、手塚さん、お久しぶりです」


あくまでも同僚として会釈すると、すぐに自販機に向き直り、温かいカフェオレのボタンを押した。

もうひとつ、紅茶のボタンを押そうとする私の耳に、クスッと笑う声と、こちらにゆっくりと近付く足音が聞こえる。


「ふたりの時くらい、他人行儀にならなくてもいいんじゃないの?」

「もう他人でしょう、私達は」


ガコン、と缶が落ちた音と、私の冷たく放った声が重なった。

どんよりする気持ちとは裏腹に、心臓はドクドクと動いて騒がしい。変に緊張してしまう。


恵次は苦笑を漏らして、「……そうだな」と呟いた。

その声があまりにも寂しそうに聞こえるから、少しだけ罪悪感を覚える。そんなもの、私が抱く必要はないはずなのに。

< 83 / 215 >

この作品をシェア

pagetop