月下美人の咲く夜を

「………………。」

一度思い出してしまうとイライラが溢れてくる。

自然と握られた拳は、どこにぶつけることもできず苦々しい想いを強くさせた。

「……………咲月。」

掠れた声で呟いたって返事なんか返ってこない。


そんなのわかってる。


あの運転手が裁かれたって咲月は戻らない。


それもわかってる。

当時は怒り狂うままに必死に頭を下げるその男の奥さんに声を荒げたりもしたけど、怒りはいつしか虚しさに変わった。


行き場なく残ってしまった虚しさとポッカリ空いた穴に詰まる絶望をどうしたらいいのか。


それだけが、今でもわからないんだ。


それはきっと………


咲月も俺以上に感じたことだろう。



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