ぼくらのストロベリーフィールズ



母に、あの男と一緒に暮らすことになったと嬉しそうに伝えられたのは、田舎町で暮らして2年が経った時だった。



僕は家を飛び出し、どこかの田んぼの奥にあった小屋でたたずんでいた。


初めての家出だった。



静まり返った夜の空気の中、時間が経つにつれ不安な気持ちが増していった。



ーーお母さん!! お母さん!!



母の悲鳴を聞き、必死で家のドアを開けようとした、あの日のことを鮮明に思い出してしまう。




僕がいないと……母が家でまた危ない目にあうかもしれない!




でも――



『ーーっ! ーーーーっ!』



あの時の母の悲鳴。


そういえば、あれはどんな声だった? 



あの時は恐怖のあまり、気にならなかったけど。


いやっ! だけじゃなくて、もっと! って叫んでいたような気もする。



意味が分からなかった。



同時に気持ち悪いと思った。



結局、寒さと罪悪感が募り、その日のうちにとぼとぼと家に帰った。



でも母はいなかった。


いつものようにその男のところに行っていた。



僕は一人でバカなことをしているなと思った。



次の日、母にあの男と一緒に住んでいいよと伝えた。


母はとても喜んでいた。




しかし、その男が僕の家に住み始める予定だった日、彼はどこかに消えてしまった。



あの男には、奥さんがいた。


離婚すると言って数年が経った状態だったが、結局は母の方を捨てた。



『一吾、また2人で頑張ろうね』



そう言って、母は泣いていた。








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