ぼくらのストロベリーフィールズ



次の日、土曜日で父は会社が休みだった。


朝のうちに母は出ていくことになった。



「私は母親失格だから。少し休んでいろいろ考え直してみる」



そう言って、私に弱々しい笑顔を向けた母。



「じゃあね」



トランクを引いた弱々しい後姿が家から出ていく。


幕が閉じられるように、外からの光の幅が狭くなっていき、扉がぱたんと閉められた。



デジカメかスマホで撮った映像を見ているようだった。


頭では両親が別居する、という事実は分かっているし、寂しいと思っている。



しかし、『元気でね』と母に伝えることができなかった。



父を裏切って、知らない男とキスをしていた姿を思い出すと、

これから家事どうしよっかな、という現実的な心配の方が浮かんでしまったのだ。



まだ、実感が伴っていないからかもしれない。



「俺も父親失格だな。母さんに母さん自身を見失わせてしまったんだ」



父はぼそりとそう言って、私の頭を撫でた。



これからは父と2人暮らし。だけど、実際はほぼ1人暮らしになる。



私は、無性に一吾くんに会いたくなっていた。




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