奇聞録(冬)
街路灯の下に見えたのは、何年も前に死んだ姉だった。
うつ向いて佇んだ姉は、あの場所で死んだままの服装だった。
何も、そんなおどろおどろしい姿で、あんな場所に佇まなくても良いと思うのだが、
頑なにそこから動く気配がない。
私は近くまで行って、姉に声をかけようと思ったが、
躊躇った。
一台の車が街路灯の下に止まる。
車から降りてきた男は、花瓶が置かれた場所に立ち、
小便をした。
男には、姉の姿は見えないのだろう。
姉の足に尿が掛かっている。
私は居たたまれないまま、その光景を見る事しか出来なかった。
姉は顔を男の前に向けていた。
そうして、小便が終わった男は車に乗り込んだ。
街路灯の下には、もう姉は居ない。
何故なら、
男の車に一緒に乗り込んで、
行ってしまったのだから。
車が私の横を通りすぎた時に、
姉は助手席に乗っていた。
顔の形すら判別出来ないほど、滅茶苦茶な顔だったが、
運転する男の横顔を、じっと見つめ、
笑っていた。
姉さん。
やっと、ひき逃げ犯を見付けたのだね。