流れ星スペシャル
深夜だからか、信号はなかなか変わらなかった。
「よし」
やっと青になり、わたしはまた自転車にまたがる。
息を吸い込んで、ペダルを踏み、横断歩道を加速していく。
その延長線上のずっと向こうに、トシくんが歩いているのが見えた。
いつも一緒に帰るときとはちがうルートだ。
チリンチリン!
その背中に追いついてから呼び鈴を鳴らした。
「アズ……?」
振り向いたトシくんが驚いた顔をする。
「後ろに乗って。わたしが送ったげる」
自転車にまたがったまま足を着き、親指でクイクイと荷台を指した。
「は? ええよ、そんなん。アズ遅なるし」
「いーから! せっかくタクシー降りてくれたのに、ゴメンゴメン」
早口でそう謝ると、トシくんの顔がほどけた。
「はは。何気にしてんの? アズは早よ帰れ。ひとりでスイスイッて走るんやろ?」
トシくんはシッシッと、わたしを追い払うように手を振った。
「遅いから、オカンが心配しとる」
なんて笑ってくれる。
「あの、これ、ありがとう。でもトシくんも寒いから」
トレンチコートを脱ごうとすると、それも制してトシくんは言った。
「オレは酒が入ってるから大丈夫。つーか、これくらいが冷んやりしてて気持ちええねん。
んじゃ、バイバイ」
と、もう歩き出す。