流れ星スペシャル
「ほなオレ行くわ。また明日な」
するとトシくんは、そう言うなり駆け出した。
信号が点滅している横断歩道を渡り、大きな通りを向こう側へ走って行く。
「あ」
わたしもすぐにペダルを踏み込もうとしたけれど、できなかった。
肩にかけられたコートがずり落ちそうになったから。
そうしてモタつく間に信号が変わる。
あ~、もう……。
とりあえず一旦自転車を下りて、スタンドを立てた。
少し迷ったけれど、トシくんのトレンチコートの袖に腕を通していく。
チラッと見える高級ブランドのタグ。
そのしなやかな手触りは、本当は香水くさくなんか全然なくて、甘くスパイシーな香りを微かに感じさせるだけだった。
「意外と大きいな……」
自分よりも華奢だと思っていたトシくんのコートは、着てみるとわたしにはずいぶん大きい。
「う~、あったか……」
そして、その温もりは正直ありがたかった。
トシくんだって、きっと寒いはずなのに……。
「あ~あ」
やっちゃったな……。
繊細なトシくんのことだ。
イヤミっぽく突っかかってくるわたしの態度に、気づかないはずがないんだ。
それを気づかないフリで駆けて行ったトシくん。
いつもなら絶対言い返してくるはずなのに。
絶対イヤな気分になったはずなのに。