ウサギとカメの物語
10 ウサギとカメの歩き方。


「消防士との合コンは?」

「………………行かない」

「岩沼支店に異動願いは?」

「…………出すわけないでしょ!」

「ふーん」


午前8時。
どちらともなく目が覚めた。


カメ男のあったかい腕の中でダラーッと甘えていたら、そういう妙な質問をされたから呆れ返る。
どうせどんな答えが返ってくるのかほぼ確信してるくせに、わざわざ聞いてくるなんていい性格してると思う。


ロンT越しでもじゅうぶん伝わってくるヤツの意外と筋肉のついた体。
ヒョロヒョロしてるかと思いきや、やっぱりそうじゃなかった。
消防士並みとはもちろんいかないんだけど、それなりに男らしい体つきで昨夜はビックリしたもんだ。


借りた部屋着はなんかの柔軟剤のいい香りがして、そしてぬくぬくと温かい。


ヤツの二の腕を手でグイグイ押しながら筋肉の感触を確かめて、そして聞いてみる。


「あのさ、なんでこんなに筋肉ついてるの?」

「………………ボルダリング」

「え?なに?」

「ボルダリング。週に3回行ってる」


まだ重かった瞼が、驚きで見開いてしまった。
信じられないという目でヤツを見ていたら、それが伝わったらしくてカメ男は微笑んでいた。


「そんなに意外?」

「うん。そういうの興味無さそうなのに」

「勝手に決めないでよ」


ははぁ、そうかそうか。
私が思い込んでいただけで、ヤツの「ふーん」って興味無いわけではないってことなんだ。
案外興味を持って聞いてくれているのかもしれない。


だって忘れかけていたけれど、この人は言葉も表情も人より少ないんだった。


ほんとにほんとに、厄介な男だなぁ。
そんなヤツを好きになった私もだいぶ厄介な女だけど。

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