ウサギとカメの物語


私が黙りこくってカチンコチンに固まってしまったからか、熊谷課長はプッと吹き出して目の前で手をブンブン振ると


「大丈夫?目を覚まして」


と私の意識を現実世界へ呼び戻してくれた。


「だ、だって課長ほどの人なら、私なんかよりももっと素敵な人の方がお似合いかと思ってしまって……」

「大野さんだって素敵じゃないか」

「は、は、初めて言われました……」

「ほんとに?それは世の男たちの目が節穴なんだな」


あはは、と笑う熊谷課長の横顔をもうまともに見ることも出来なくなってしまい、ただただ幸せな気分に浸っていた。


これは現実?
本当に現実なの?妄想じゃなくて?








げ、ん、じ、つ、です!!
やったーーーーーー!!


大野梢、26歳。


もしかしたら、もしかするかも、な展開にウッキウキしております、はい。
世にも奇妙なことが起こっております!


絶対に手が届くわけないと思っていた、熊谷課長との恋が少しずつ始まっている、そんな予感がしていた。







帰りの電車の中、1人ニヤつくOL。
それは私なのでした。



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