ウサギとカメの物語


案外、カメ男ったらいいこと言うんだなって思った。
彼が言ったことは私の心にすんなりと入ってきてくれて。
自分でもちょっと驚いた。


疲れてまでも一緒にいたいかどうか。
それは今日の疲労感を考えれば答えはひとつだった。


「私も嫌だな……。やっぱり好きな人には自分の全部をさらけ出したいよね……」


はぁ、と吐いたため息が夜風に乗ってどこかへ飛んでいく。
ホームの屋根の隙間から少しだけ見える空を、私とカメ男はぼんやりと眺めていた。


そのうち、私たちの目の前に乗るべき電車が到着する。
ゆっくり停止して、プシューッと音を立てて扉が開く。


あー、もう電車来ちゃったかー……。
乗らなきゃな……。
乗らなきゃ……。


バラバラと乗客たちが降りてきて、私たちと同じようにホームで待っていた人たちが続々と乗車していく。


でもなんか、なんだろうな。
もう少しここにいたいなー……。


隣に座るカメ男をチラッと見ると、ヤツも座ったまま動かない。
電車に乗る気ゼロって感じで。


「乗らなくていいの?」


と尋ねてみたら、ヤツはコックリとうなずいた。


「次来たので帰る」

「…………私も同じこと思ってた」

「…………そう」


カメ男は次の電車が来るまで私の方を見ることは無かった。


あぁ、そういえばヤツのコンビニ弁当、地面に落ちたっけ。
ぐちゃぐちゃになってないかな。
謝った方がいいかな。
でも、きっとヤツは「別にいい」って言うんだろうな。


冬の訪れを予感させる風に吹かれながら、私とカメ男はホームのイスにもたれて大した会話もせずに過ごした。





なーんかこいつ、ちょっと居心地いいぞ。
そんなことを思いながら。








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