ウサギとカメの物語
4 怖気づくウサギと、相談役のカメ。
熊谷課長にホテルに誘われてから、私の意識は確実に変わっていった。
「憧れ=好き」と思っていたけれど。
そうじゃないって気づいたから。
自分が自分じゃなくなるのは、やっぱり恋愛とは呼べないから。
だから、あのあと課長から食事に行こうと2回ほど誘われたのは断った。
めちゃくちゃもったいないなぁって本当は思ってますよ!
だって超絶イケメンですからね、熊谷課長は!!
誰しもが羨むような相手ですからね!!
でもそれは好きとは違う。
課長とキスしてエッチしたいかって言われたら、そうじゃないんだよね。
だってどうせまた私のことだから、自分を良く見せようと必死になっちゃうだろうし。
そんなの疲れるだけだし。
あーあ。
2年ぶりに彼氏が出来ると思ったんだけどなぁ。
しかもものすごく素敵な彼氏が。
でも理想と現実ってそうそう甘くない。
それを今回のことで実感した。
夢だったイケメンとの社内恋愛。
さようなら、オフィスラブ。
カタカタとパソコンのキーボードを軽快に指先で叩きながら、ついつい感傷に浸ってしまう。
そしてハッと我に返って、いかんいかん、と自分に言い聞かせる。
仕事に集中しろ~。
またミスしちゃうぞ~。
これ以上のミスは許されないんだから~。
そんな私に向かいのデスクに座る奈々が小声で話しかけてきた。
「コズ、今日のランチどこにする~?」
「ん~……、ベーグルサンド食べたい」
「あぁ、定禅寺通りに出来たとこ?いいねぇ、そこに決定~。ちょっと距離あるから早めに出なきゃね」
「うん、そうしよー」
私たちがほのぼのといつものランチトークに花を咲かせていると、おずおずと新人の美穂ちゃんが小さく挙手をして名乗りを上げてきた。
「あの~、私も一緒に行ってもいいですか?」
「お、珍しい!もちろんおいでよ~」
すぐさま奈々が嬉しそうに快諾する。
もちろん私も笑顔で「楽しみだね」と頬杖をついた。