ウサギとカメの物語
5 世話焼きウサギと、カメの評価。


「来月頭には社員旅行ねぇ」

「え、もうそんな時期ですか?」

「そうよ~間もなく12月なのよ~」


女子更衣室で、朝の支度をしながら私と真野さんが会話していた。


真野さんは準備もすっかり終わった様子で、のんびりと更衣室の壁に掛けられているカレンダーを眺めている。
簡単に化粧直しをしていた私は、彼女が見ているカレンダーに目を凝らした。


もはや来週じゃないの、社員旅行!
本当に1年ってあっという間に過ぎるものなんだなぁ、って社会人になってから実感している。


12月ということは、私の誕生日もやって来るわけで。
いよいよ27歳になってしまうのね……。
ついに26歳の間には彼氏が出来なかったか、無念だわ。
そしてカレンダーを見ていて気づいてしまった。


「うわ~、最悪。社員旅行の日……私の誕生日だぁ」


思わず嫌そうな声が自分の口から漏れ出てしまって、慌てて手で口をふさぐ。
もちろん真野さんが聞き逃すわけもなく、「あら!」と楽しそうな声を上げた。


「コズちゃんお誕生日なの~?みんなにお祝いしてもらえばいいじゃない」

「みんなって例えば誰ですかぁ」

「藤代部長とか?」

「嫌ですよ、あんなハゲ部長」


ついつい暴言を吐いてしまい、自分で笑ってしまった。
真野さんもクスクス笑っている。


「まぁ、それは冗談として。社員旅行楽しんでおいでね」

「今年も真野さんは不参加ですか?」

「うん。どうしても小学生の娘の方がね~、寂しがり屋でちょっと心配だからね。旦那は頼りにならないし……」


残念だけど、真野さんは毎年社員旅行には来ない。
子供がいる人は連れてきてもいいことにはなってるけど、実際に子供を連れてくる社員はほとんどいなかったりして。
下のお子さんが中学生になったら参加しようかな、って前に言ってたっけ。


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