ウサギとカメの物語


そしてすっかり忘れていた……わけじゃないんだけど、もうひとつ。
私には大事な任務があった。


美穂ちゃんからのお願いごと。
神田くんに、彼女のことは諦めるように念を押すように伝えなくてはならなかったのだ。
あの話を受けてからもうかれこれ2週間ほど経過していた。


毎日のように美穂ちゃんに「伝えてくれましたか!?」って聞かれるたびに、色んな言い訳をして先延ばしにしていた。


だって神田くんと2人きりになるタイミングなんて、いくら待っても全然訪れることがなくて。
こうなったら私から彼を呼び出して話すしかないのかな。


事務所に入って、適当に挨拶をして自分のデスクに腰掛ける。


すでに出勤している神田くんに、美穂ちゃんがちょうどお茶を出しているところだった。
斜め向かいの席から、彼らの様子をそっと伺う。


美穂ちゃんが「神田さん、おはようございます」って言いながら、湯のみ茶碗を差し出している。
その顔はちょっと気まずそう。


それに対して、神田くんの方はほんのり照れながら「いつもありがとう」と微笑んでいた。


か、か、可愛い……。
なんて可愛らしい2人なんだろう。
絵になるっていうか。
めちゃくちゃほっこりしてしまう光景だった。


私としては美穂ちゃんが好きな人を諦めて、神田くんに乗りかえちゃえばいいのにって思うんだけどなぁ。
よっぽどその人のことが好きなんだろうなぁ。


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