Memories of Fire
第一王女、ソフィーの場合

嫌い

 その日、フラメ王国は祝福のムードに包まれていた。
 
 ブレネン王家の第一王子、ヴォルフの結婚式が行われるためだ。
 
 彼の妻となるフローラは、一般家庭で育ったピアニストである。
 
 半年ほど前だろうか。随分長く独身を貫いていたヴォルフは、突然彼女を宮廷ピアニストとして城に連れてきた。そして、これまた突然、異例の早さで婚約・結婚を決め、今日に至る。
 
 身分差故に、その道のりには数々の障害があったけれど、無事に結ばれた彼らは、二人寄り添ってとても幸せそうだ。
 
 城の敷地内にある教会で厳かに誓いを交わし、国民へのお披露目のために城下町を回った後、城では彼らの結婚祝いが行われていた。
 
 ヴォルフとフローラは、貴族たちへの挨拶回りで忙しくしている。ヴォルフはしっかりとフローラの手を握り、ときどき彼女の髪や頬にキスを落として彼女を困らせていた。
 
 そんな彼らを遠くから見ているのは、ヴォルフの姉、フラメ王国の第一王女ソフィーだ。隣では、彼女の夫クラウスがシャンパングラスを静かに傾けている。
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