Memories of Fire

好き

「ソフィーは変わりませんよね。あのときから、全然素直になってくれません。いくら長姉だからといって、甘え下手にも程があります」
「あら、嫌なら離縁していただいて結構よ」

 クラウスの不満にクスッと笑ってソフィーが言い返す。すると、クラウスははぁっとため息をつき、空になったシャンパングラスを通りがかりの侍女に渡した。

「それだけならまだしも、私をあしらうのが上手くなってしまいました」

 心底残念そうなクラウスだが、十年以上夫婦をやっていれば、彼の言動にも慣れるというもの。それにソフィーも年を重ねて落ち着いてきた。

「新しい迫り方を考えなければいけませんね。たとえば……こんな感じではいかがでしょう?」

 クラウスは少し考える素振りを見せた後、ソフィーの背から彼女を抱きしめ、肩に顎を載せる。

「もう……離れてちょうだい」

 顔を顰め、クラウスの身体を引き離そうとするけれど、この夫は華奢に見えて意外に力がある。もちろん男女差というのもあるが……

「こんな大勢の人の前で恥ずかしいでしょう」
「誰も私たちなんて見ていませんよ。今日の主役はヴォルフ様とフローラですから。なんだか当てられてしまいますね。ソフィー、今夜はカーヤたちを城に泊まらせましょうか」
「……貴方、酔っているの?」

 呆れているのが半分、でも、半分は……年甲斐もなくドキドキしている。こんなにソフィーにくっついてくるクラウスは珍しい。それも、娘たちを城に置いていこうだなんて――二人きりになりたいと言っているのだ。

 まさかとは思うが、この冷静沈着という言葉がぴったりの男が、本当にヴォルフたちに当てられたというのだろうか。
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