Memories of Fire
「そうですね……私が貴女に求めるものが、違うからではないですか?」
「求める、もの……?」
「ええ。私は貴女の地位を求めていません。元々ハウアー家は中立派ですが、私個人としても議会の対立は理解しかねますし、私は文化省での自分の仕事にも満足しています。政(まつりごと)の争いとは関係なく純粋にフラメ王国の芸術文化の発展に尽力できますから」

 クラウスはそう言いつつ、ソフィーの顔を優しく自分に向け直させる。

「議会で権力を握る必要なんてないのです。私は貴女に何かをしてほしいわけではありません。強いて言えば、甘えてほしいのですけれど……それは、追々学んでいただくとしましょう。今は……私が貴女のお気持ちを察する努力をさせていただきます」

 ふふっと笑い、クラウスはソフィーの頭を優しく撫でる。

 努力をするだなんて言うが、クラウスはもう十分すぎるくらいソフィーの心を見透かしている。

 ソフィーもそれに気づいていた。だからこそ、ソフィーは苛立ちを感じた――わかってくれているはずなのに、と。

 そんな風に彼に頼っている時点で、ソフィーの信頼はクラウスにあったのだろう。

「甘え方なんて、わからないわよ……」
「では、教えて差し上げましょう。まずは、この小さな手を、私の背に回していただけますか?」

 ソフィーの手を包んでいたクラウスの手が離れていく。ソフィーはほんの少し躊躇ったけれど、おずおずとクラウスの大きな背に手を回した。

「政略結婚から始まる愛も、悪くないと……思わせてみせますよ。ソフィー」

 クラウスは更に身体を近づけてそう言った。それからすぐに唇が重なって、ソフィーは目を閉じる。

 政略結婚だなんて嘘。それはクラウスもわかっているはずだ。

 でも、しばらくはこのまま意地を張っていよう。クラウスが甘やかしてくれるというのなら――
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