Memories of Fire
「む、まひー、ほへひほーむひだほー」
「無理でいいのよ。ちょっとお酒が回りすぎているみたい。貴方の悪い癖が出てきているわ」

 エルマーは変わり者で調子のいい男だけれど、それでも普段は……かっこいい。ファッションセンスはともかく、軍の最高指揮官として働く姿は凛々しいし、へらへらしているように見えて人のことをよく見ている。

 欠点は、お酒を飲んだりこんな風に周りが祝いのムードでテンションが上がったりすると、デリカシーがなくなることだ。いや、最初からないと言ってもいい……つまりはそれを抑制できる状態か否かの違いである。

「あー、またプロポーズのこと言うの!? マリー、何かっていうとそれを持ち出して……ずるい!」

 ケーキを飲み込んだエルマーがマリーの表情を見てムッと頬を膨らませる。

「ずるくないわよ。一生に一度のことなのに、あんなプロポーズされて忘れられる方がどうかしているでしょう。大体、あれをプロポーズなんて呼べるのは貴方くらいよ」

 思い出したら、なんだかイライラしてきた。マリーは近くにあったワイングラスをひったくるように取り、一気にそれを飲んだ。

「だから、やり直したじゃん! マリーの理想通りちゃんと花束持って膝ついて。マリーだって嬉しそうだったでしょー」
「う……それは、嬉しかったけど。でも、やり直しだなんて……」

 確かにエルマーは、最終的にマリーの望むプロポーズをしてくれた。けれど、一生に一度だったはずのプロポーズがあんなことになるなんて、マリーだって思っていなかった。

 あれは、ソフィーとクラウスが公認の仲となってすぐのことだった。

 ブレネン王家長姉の嫁ぎ先が決まって、マリーもようやくエルマーと……それで、二人ともかなり舞い上がっていた。

 つまり、エルマーがいつも以上に浮かれていたのだ――
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