Memories of Fire
「泣くな、気持ち悪い」

 エルマーがぐすっと鼻をすすると、ヴォルフはますます眉間の皺を深くし、口をへの字に曲げた。

「そもそも貴方は言動が軽すぎます。しかも今回は、性行為後に避妊していなかった、などと……女性に対して失礼極まりない。フラメ王国の誇り高き軍人とは思えません」

 少し離れた席に座っていたクラウスもエルマーの席まで歩きつつ、エルマーを責める。腕を組んで後列の机に寄りかかり、眼鏡の奥で目を眇められると心底軽蔑されている気がする。

「で、でも……マリーだって、早く子供が欲しいって言ってたんだよ?」
「お前の悪い癖だな。マリーはあれでも王女の中で一番夢見る乙女だぞ。プロポーズには事細かな希望があっただろう。それを調子に乗ったお前がぶち壊したわけだ。自業自得としか言いようがない」
「う……」

 面倒だといわんばかりの表情のヴォルフが、フンと鼻を鳴らしてエルマーを馬鹿にする。エルマーはヴォルフのマリーへの言い草にムッとしつつも、自分の非を指摘されて言い返せない。

「仮にマリー様の希望を覚えていなかったとしても、プロポーズが『結婚するでしょ』はないですね。決め付けもいいところです」
「そ、それは……」

 正論過ぎて心にぐさぐさと刺さるクラウスの言葉。
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