Memories of Fire

情けない男と甘い女

 翌日。

「どおしよぉぉぉ! マリーが会ってくれない! 話してくれない! 皆が俺を哀れみの目で見るよぉぉ!」

 エルマーは朝一の会議を終え、議事堂の自分の席で机に突っ伏した。

「やはりお前は馬鹿だったんだな」
「どう考えても貴方が悪いですね」

 議事堂に響いたエルマーの叫び声を聞き、ヴォルフとクラウスが呆れた……というよりも蔑みに近い目でエルマーを見る。

「そんなぁ……」

 エルマーは涙目で隣に座る従兄弟のヴォルフにしがみついた。だが、ヴォルフはチッと舌打ちをし、煩わしそうに彼を払いのける。

 マリーに部屋を追い出されたのは昨夜のこと。深夜に突如響いたマリーの罵声とエルマーの懇願、そして乱暴な扉の開閉音に気づかない者はいない。

「お前、自分がブレネン家の血筋だということを忘れているのか? 城内とはいえ、成人男子が全裸でうろついているなど、王家の恥晒しもいいところだ」
「う、うろついてないよ! 優しい同僚が上着を貸してくれたもん……」

 幸い、城に残って仕事をしていた使用人たちは少なく、何事かと駆けつけた夜間担当の警備兵が同僚の情けない姿を見たくらいで、事なきを得たが……人の口に戸は立てられない。

 エルマーとマリーの喧嘩、もとい、エルマーの失態は城中の者が知るところとなった。
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