Memories of Fire
「でも、結局エルマーの台詞回しがぎこちなさすぎて、やり直しもそんなにクオリティは良くなかったわよね。プロポーズの言葉も『俺と結婚してください』って普通だったわ」
「ちょっと! それは聞き捨てならないよ! マリーがプロポーズは『俺と結婚してください』って言うものなんだって言ったんでしょー」

 マリーが文句を言うと、エルマーは心外だと言わんばかりに腰に手を当ててマリーと対峙する。

「そんなこと、私がいつ言ったのよ?」
「嘘! マリー、覚えてないの?」

 エルマーが眉を顰めるので、マリーも同じような表情になってしまう。

「俺が初めてプロポーズしたときだよ! 何歳だったか忘れちゃったけど、中庭で、花壇の花を摘んでさ」

 エルマーは『俺、マリーをお嫁さんにしたい!』と言ったのだ。そうしたら、今まで楽しそうに笑っていたマリーは、急に不機嫌になってツンとそっぽを向いてしまい、エルマーの小さな花束は受け取ってもらえなかった。

「したいじゃなくて、してくださいでしょって怒られたんだよ。プロポーズは『結婚してください』なんだって」
「そ、そう……だったかしら?」

 言われてみると、そんな気もする。

 確か……ちょうどその頃読んだ本か何かで王子様がそういうプロポーズをして主人公はお姫様になったのだったと思う。

 マリーは笑って誤魔化そうとするものの、エルマーはとても不満そうだ。

「ていうか、怒った本人が覚えてないってどういうこと!? 俺、怒られ損じゃん」
「う……ご、ごめんね?」

 ずいっと顔を近づけられて、マリーは思わず一歩後ずさる。

「……俺、あんなに頑張ったのに……傷つく」

 エルマーはフンとそっぽを向いてしまい、ぼそりと呟く。そのまま帰ってしまいそうな雰囲気に、マリーは慌ててエルマーの腕を掴んだ。
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