Memories of Fire
第三王女ハンナの場合

不満

(あ、マリー姉様も行っちゃった)

 ハンナは次々と会場を後にしていく姉たちを視線で追いつつ、もぐもぐとサラダを食べ続けていた。今、食べているのはルッコラにひまわりの種やカボチャの種などを合わせたさっぱりサラダ。

 こういう祝いの席は、基本立食形式でたくさんの招待客を呼ぶため、サラダと言ってもいろいろな種類が用意される。マカロニサラダやポテトサラダは重くなくお腹にもたまってくれるので、ハンナにとって主食と言ってもいい。

「ハンナ……ほら、肉も食べろ。パスタも少し盛ってきた」

 そう言ってハンナにローストビーフとミートソースのかかったペンネが載った皿を差し出すのは、彼女の婚約者ジークベルト――ハンナとは随分長い間婚約中である。

 ジークベルトはハンナより一つ年上の上流貴族子息である。フラメ王国交響楽団でトロンボーンを吹いている音楽家でもある。初めは王女であるハンナに対し敬語を使っていたし、距離があったけれど、付き合いが長くなってそれも抜けた。

 長身で体格も軍人並みにしっかりしており、ハンナと並ぶと親子みたいになる。ハンナが童顔だから尚更だ。今日は、茶髪を撫で付けて、タキシードに蝶ネクタイというコンサートと同じ正装でパーティに参加している。

 ハンナがもぐもぐと口を動かしながら彼を見上げると、彼の呆れた表情が見えた。どこかへ行ってしまったと思ったら、どうやらハンナに食べさせるメインディッシュを探していたらしい。

「いらない。お肉ばかりじゃない、それ」

 なぜペンネにミートソースなのだ。しかもローストビーフと一緒にとは……肉々しいにも程がある。

「好き嫌いせずに食べろ。大体、お前は食が細すぎる。食べても野菜ばかり……だから、お前はそんなに細いんだぞ」
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