Memories of Fire
「どうかしましたか?」

 そのとぼけた様子に、ソフィーは頬を引きつらせた。

「貴方……仮にも婚約者と一緒にお茶をしていて、その態度はないんじゃなくて? 少しは会話をしようという気はないの?」
「それは失礼しました。ですが、ソフィーはペラペラ喋る男性はお嫌いかと思いまして」

 どことなく可笑しそうな表情……まるで、笑いたいのを堪えているかのようなクラウスに、ソフィーはグッと黙り込む。

 クラウスの言う通り、喋り過ぎる男は好きじゃない。そういう彼らの話はつまらないのも定石だ。

「私みたいな若輩者には自慢できるような功績もありませんし……」

 クラウスはわざとらしく肩を竦めてみせる。

「たとえば……ソフィーは何をお話ししたいのですか?」
「な、何って……」

 別に、これといって話したい内容があるわけではない。ただ、一緒にいるのに放っておかれているのが気に食わなかっただけだ。大体、お茶を飲むのにわざわざ話題を決めるのも変だろう。

「て、天気の話とか……何でもいいのよ。貴方と私には、婚約式や結婚式の話みたいな共通の話題だってあるわ」
「そういうお話をしてもよろしかったのですか? 私はてっきり貴女は乗り気でないのかと思っていました」

 クラウスの瞳が面白そうな色を浮かべ、目を細めてソフィーを見つめる。
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