ヴァイス・プレジデント番外編
のんびりと言う延大さんに聞き返すと、彼が私をのぞきこんで、にやりと笑った。



「そういうオーラが出てる」



当たってるわ。

いっこうに現実を見ようとしない作家志望だとか、たいした稼ぎもないのに浪費家で、毎月消費者金融のお世話になっていたりとか。

絵に描いたようなダメ男を、私はなぜか、会った瞬間に嗅ぎわけてしまうらしい。

そして、その匂いに惹かれてしまうらしい。


唯一つきあった、表面上はまともな男は、商社に勤めるビジネスマンだった。

けれど知ってみれば病的な潔癖症で、私はもう、いつか全身消毒でもされるんじゃないかと思い、なんとか逃げてきた。

どうやら私は男を選ぶ才能がないようだといい加減悟ったので、当分自粛しようとしているところだ。



「じゃあ俺に興味がなさそうなのは、男としては、喜んでもいいんだね」

「そうなりますね」

「フォローしようよ」



言葉とは裏腹に、楽しそうに笑うその顔は、やっぱり会長とはまったく雰囲気が違う。

奥様を拝見したことはないけれど、そちらに似ているのかしら?





「ごちそうさまでした」

「ううん、つきあってくれてありがとね。また誘っていいかな」

「喜んで」



じっとりと暑い夏の夜空の下、嬉しそうに彼が笑う。

毎回彼は、律儀に必ずこう訊いてくる。

口説くでもなく、わざとらしく下世話な話をするでもなく。

けど、私に関心があることだけは忘れさせないとでも言うように、ちゃんとそこには触れてくる。

店から呼んだタクシーに私を乗せながら、運転士にお札を渡して、延大さんがにこりと笑った。



「おやすみ」

「おやすみなさい」



自分はぶらぶらと駅まで帰るつもりなんだろう、背の高い姿が、煙草を片手に、手を振って私を見送る。


なんなのかしらね、このおつきあいは。

不思議な人。



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