ヴァイス・プレジデント番外編
「ですから幼馴染とか、近所のお友達とか、そういう関係を持たずに育ちました」
「そりゃあ、残念だね」
あぐらをかいた延大さんが、くわえた煙草を上下に動かしながら気の毒そうに言う。
こうした出自を、変に持ち上げたり、貴重な経験だと言ったりしない姿勢に、私は素直に感謝した。
そう、まさしく「残念」だわ。
的確な表現。
「だらしないって、どんなふうに?」
「そもそも母は、父が塾の講師をしていた時の生徒だったんです。17歳も年下で」
「でも、その、関係を持ったのは、ある程度歳がいってからなんでしょ?」
「いえ、16歳だった教え子に手を出し、高校卒業を待たずに、母は私を産みました」
我ながら毒のある表現だと思う。
でも仕方ない、娘の私から見た両親は、そんな印象なのだ。
未来を摘みとられた少女と、保護者面をした暴君。
頬杖をついた延大さんが、私にかからないよう煙を吐く。
「高校生かあ」
「考えられないでしょう?」
「うーん…まあ、俺はね」
母と結ばれた時の父は、今の延大さんよりも年上だ。
それで、自分の年齢の半分にも満たない娘によからぬ思いを抱くなんて、どんな精神なんだろう。
「ご両親、仲はいいの?」
「別れたら、母は暮らしていけませんから」
せっかくの涼しげな食後の甘味を、気づけば私は、味わうゆとりもないまま食べてしまっていた。
つくった人にも、甘味自体にも申し訳ないことをした気になって、ため息が出る。
「久良子ちゃんは、よくない男に引っかかりそうだねえ」
「そうお思いになります?」