ヴァイス・プレジデント番外編
聞こえたその声に、誰もが虚を突かれた。

城さんが、ゆったりとソファ席の背もたれに寄りかかって、煙草をふかしながら言葉を継ぐ。



「その子にプロポーズしたんだけど、ふられちゃって。だから見合いして、あんたと結婚したんですよ」

「薫、やめろ!」



テーブル越しにつかみかかる勢いでとめようとしたヤマトさんに、うるせえ、と城さんがかなり容赦なくおしぼりを投げつけた。



「本人が知りたがってんのに、お前にこそ、隠す権利なんてねえだろ」

「話のわかる人ね。で、その相手って、誰?」

「久良子ちゃんていう、俺たちと同じ秘書です。もう辞めたけど」

「なんでプロポーズを受けなかったのかしら」



さすがにそこまでは知らないらしく、城さんは肩をすくめる。



「兄貴を好きってのは、間違いなかったみたいですけどね」

「彼女はまだ、独身?」



城さんから視線をもらい、私は思わず、たぶん、とうなずく。

久良子さんが結婚していたとしたら、さすがに和華さんたちから情報が入るだろう。


ヤマトさんは、もうどうしたらいのかわからない様子で、眉根を寄せて、唇を噛んでうつむいている。

そんな彼を眺めながら、脚を組んだルリ子さんが、ふうっとゆっくり煙を吐くと。

突然、これまでの剣幕が嘘のような、ほがらかな、さっぱりした声をあげた。



「そういうことかあ」




< 132 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop